Y 石碑

石碑があった。
高さは5メートルほどだろうか。
そこには天使の伝説と異国の文字でタイトルをつけられた文章が彫ってあった。
タイトルから察する通りそれは伝説を記したもので、天使のお話だった。

 天使は全てを慈愛によって我らを救う。其れ故尊ぶべき存在なのである。
 ある天使がいた。年は10代。其の天使は何かと反発する出来の悪い者であった。
 ある日天使は一人の女に恋をした。天使として全ての人間を愛するべき存在が一つに愛を注いでしまった。
 無論其れは許される事の無い悪である。
 その天使は罰を受けた。それは天使の象徴である翼を灼熱の炎によって漆黒に染め果てさせることであった。
 天使は喘ぎながらも其の罰を受けきった。
 そして天使は下界。私たちの住むところへ堕とされた。
 再び天上界に昇るには条件があった。
 それは善き行いをすること。
 それは誰が決めるでもない。自身の善を尽くすことだ。
 たとえそれが誰が見ても正義でも自身が悪と思えば悪である。
 無論逆も然り。
 そうすれば漆黒の翼は落ち。純白のそれに戻る。
 そして再び天へと昇る力を得るであろう。




その街に住む人間にこの石碑を読むことは出来ない。
文字とすら認識されていないだろう。
それ故、この伝説を知っているのは誰もいない。
ダレモ、ダレモ。







ダレモ・・・・・








漆黒の羽根が一つ落ちていた。






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