「ねぇ。」

声がした。
高い、幼い声。
男か女かわからないくらいに。

「僕ってさ、なんで生きているんだと思う?」

問いかけているような、でも独り言のような。
そんな気もする。
・・・そんな、声。

「・・・なんて、ね。」

小さい後姿は立ち上がると尻を払った。

「さぁ、行こうか。」

そして荷物を持って歩き出した。


あなたが生きる理由


T 涙




威勢の良い声が聞こえる町。
漁師町。
ここは、魚市場。

「うーん、おすすめは?」
「おう!今朝あがったジリュウが美味いよ!!ここでしか取れない特産品だ」

男が指差したところには奇妙な、見たことのないような魚があった。

「なにこれ?気持ち悪」
「見た目はゲテモンだが味は最高だ!騙されたと思って喰ってみろ!!」

そういって刺身にしたその魚を渡してきた。

「ん・・・おいしい。」
「だろうに。」

男は自慢げに言った。

「うん、買うよ。あとこれも。」
「まいどあり!」

魚を入れたクーラーボックスを自転車に取り付けて市場を後にしようとしていた。

「クリス・・・だな?」
「ん・・・」

クリスと呼ばれ、少年は身を後ろに反らせた。

「俺はベディウス・マクラホマ」
「どうも・・・」

少年は自転車から降りた。

「エルフ狩り・・・ですか?」
「ああ・・・悪いが嬢ちゃ・・・」

少年は深くため息をついた。
そして男を見つめた。
瞬間男の時間は止まった。
少年は男のほうへ歩いた。
手はしだいに鋭い刃へと変わっていった。
男は動かない。

「悪いけど・・僕も死ぬわけにいきませんので。」

いや、動けない。
そして少年はゆっくりと手を上げると男の首に触れた。

「さようなら。」

少年は刃を首に刺して歩き始めた。
その歩くままに首は切れた。
そして男は果てた。
少年が全身に浴びた紅は沈み逝く太陽に反射し美しくとも感じられた。
少年はようやく表情を変えた。
それは恐怖ではなく寒さ。
濡れた体は秋の風にはあまりにも冷たかった。

「う〜びちょびちょ・・・」

少年は上着を脱いだ。
そしてそれを絞ると血が滴り落ちた。
上空には怪しげな雲が流れ、そして雨が降った。






雨が降っていた。
しとしとと。



長雨になりそうだ。





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