【第4回 DARESIA賞・ベスト10】

対象本数:09年に鑑賞した、新作邦画&洋画、のべ231本。

備考:左に表示されている画像をクリックして頂きますと、その映画のユーチューブ予告編
が別窓で表示されます。どうぞ合わせてご覧くださいませ。

2月5日に発売になりました、キネマ旬報2月下旬・決算特別号(第83回キネマ旬報ベスト
テン特集)におきまして、私が以下に選んだ邦画、洋画のベスト10と短い総評が、「読者
のベストテン」コーナーに掲載されました。(愛知県岡崎市 22歳)が私の投稿であります。
是非、機会があれば、立ち読みか何かでご高覧ください。全国の書店で販売中です。

日本映画・ベスト10

第1位

「ディア・ドクター」


(監督:西川美和/出演:笑福亭鶴瓶、瑛太)

評: 前作「ゆれる」に引き続き、西川美和の人間追及の辣腕が光る。誰もが必ず持っているであろう、深奥に根付く感情と僻地医療という医療問題を通し、金だとか地位だとか名誉だとか、それ以前の根幹「人として」を問う、濃密な人間ドラマ。主演、笑福亭鶴瓶の胡散臭い存在感がそのままスクリーンに焚き付けられ、観る者の心を揺さぶるのである。不作と呼ばれた、09年の邦画界において、唯一無二の煌びやかな魅力を放つ秀作であったと断言する。必見! キネマ旬報ベストテン1位。

 

第2位

「剱岳 点の記」

(監督:木村大作/出演:浅野忠信、香川照之)

評: 邦画界を代表するキャメラマン、木村大作の初監督作品。撮影に2年間を有し、CGや特撮皆無の体当たり演出を敢行した本作は、凡百ある邦画の追従を決して許さない。「八甲田山」を 圧倒的に越えるスケールと山岳の秀麗な美しさ、俳優達の抑揚の効いた演技は、まさしく本物の日本映画に兼ね備えられるにふさわしい要素となっている。木村は第1作目にして、邦画の神に君臨したのである。キネマ旬報ベストテン3位。

第3位

「愛のむきだし」


(監督:園子園/出演:西島隆弘、満島ひかり)

評:  親と子の不調和、日常生活の影で蠢き続けるカルト教団が巧みに入り交ざる世の中において、ある男女の激情な愛が成就するまでの過程を描いた娯楽作。パンチラ盗撮、勃起、レズビアン、女装。思わず後ずさりしてしまうような要素をふんだんに盛り込んでいるが、終盤、ヒロインがコリント13章の聖句を絶叫したと共に、壮大なカタルシスが幕を開ける! 人間、大事なのは見せ掛けではな い。上映時間は圧巻の4時間。しかし、人生で最も短い4時間になる筈だ。 キネマ旬報ベストテン4位。

第4位

「ポチの告白」

(監督:高橋玄/出演:菅田俊、野村宏伸)

評: 例えば、「踊る大捜査線」や「相棒」といった刑事ドラマは正義感厚い人物達が右往左往に活躍している。だが、その味付けの良さを全く、微塵たりとも出さない 本作のような刑事ものもある。無垢で純粋な巡査が、徐々に裏金作りや、ノルマを稼ぐ為に暴力団と結託し、暗部を露呈していく様は、そのまま警察全体の腐敗も反映しているのだ。「市民は馬鹿ですからぁ!」と観客に強烈に投げ掛ける主人公を演じるは、菅田俊。素晴らしい覇気であった。 紛れも無く、告発映画の傑作の誕生である。

第5位

「犬と猫と人間と」

(監督:飯田基晴/ドキュメンタリー)

評: 世界でも有数のペット大国、日本。その影に隠れている犬や猫の殺処分の問題に焦点を合わせた社会ドキュメンタリー。決して、感傷的にならずあくまで客観的な視線を貫く姿勢は見事。だからこそ保健所や民間の保護団体の意見も納得がいくのである。徳島の「崖っぷち犬」に対する世間の騒ぎ様、はたまたイギリスのペット事情にまで緻密な取材が行き渡り、説得力は加速度的に増していく。さらに本作はこの杜撰な日本の現状を打破するであろう、「希望」も明示する。それには我々オトナは、平伏せざるを得ないのだ。
第6位

「フィッシュストーリー」


(監督:中村義洋/出演:伊藤敦史、高良健吾)

評: 映画界に相性の良い、原作と監督の組み合わせが存在する。現代洋画ならスティーブン・キング(原作)とフランク・ダラボン(監督)が好例といえよう。いやしかし、現代邦画にも「伊坂幸太郎(原作)×中村義洋(監督)=傑作」という法則が存在する。否応にも、本作のような人と人との繋がりの大切さ、圧倒される映画的躍動感 、素晴らしい役者陣を纏め上げる演出を味わい知ると、前述の法則も認めてしまう。フィッシュストーリーは文字通り、魚の話ではない。タイトルの真の意味が判明する時、本作の魅力にも気付かされるだろう。こんなバカな話も、たまには良いのだ。
第7位

「ジェネラル・ルージュの凱旋」


(監督:中村義洋/出演:阿部寛、竹内結子)

評: 第6位に引き続き、またもや中村義洋監督作がランクイン。海堂尊原作、田口・白鳥シリーズ二本目の映画化。不埒な医療体制が敷かれている病院内部をエンタメ性を損なわず、しかし力強く告発している快作である。患者の命の最前線といえる、救急医療の散々な実態を見せつけられ、堺雅人扮するセンター部長の本性と呼称である「ジェネラル・ルージュ」の真の意味が明らかになる時、現代医療に懸命に携わる全ての人々を、思わず敬愛したくなったのである。
第8位

「サマーウォーズ」


(監督:細田守/声の出演:神木隆之介、桜庭ななみ)

評: 傑作「時をかける少女」から3年、細田守が今度はオリジナル作で、困窮するアニメ界に一石を投じる。武田信玄の家臣の末裔の大家族が住む長野の田舎町と、OZという仮想空間との対比を色彩と情緒豊かに描いている。終盤に描かれる、世界の終末の危機は確かにご都合主義かもしれない。しかし同時に、人間性の失われたネット世界の究極の姿、かけがえのない家族愛を我々に提示しているのである。活劇描写も心地良く決まり、高揚感の釣瓶打ちを仕掛けた爽快作とも呼べる。09年夏映画の代表筆頭だ。キネマ旬報ベストテン8位。
第9位

「南極料理人」


(監督:沖田修一/出演:堺雅人、生瀬勝久)

評: まさに「男版、かもめ食堂だ!」と叫びたくなった、緩いけれどホッコリしてしまうコメディである。さぞかし、−70度を超えることもある極寒の南極基地での生活は辛いだろうと思っていたら、何と快適なことか!ただし圧倒的に娯楽の無い施設において、観測隊の楽しみは「食べること」であった。劇中に出てくる、おむすび、豚汁、伊勢エビフライ(!)に、思わずジュルリ…。美味しそうなこと! さりげない人間模様 から、肉的な欲求で溢れかえった、我々が住む日常について、アレコレ推察させてくれるのも嬉しい。
第10位

「のんちゃんのり弁」


(監督:緒方明/出演:小西真奈美、岡田義徳)

評: 第9位に続いて、「食」を描いた映画だが、芯は下町人情の趣を醸し出しながらも、小西扮する世間無知なアラサー主婦の自立を軽やかに描いた喜劇。母親役の倍賞美津子の優しい存在感、小料理屋主人の岸部一徳が発する名言に支えられる主人公に思わず、己自身と重ねて応援したくなってしまった。一見、小品な印象の映画だが、今日の辛い社会を懸命に生きる人々にとって、これ以上無い精力剤となり得る作品といえよう。

日本映画・個人賞

 最優秀監督賞:西川美和
 (ディア・ドクター)

 最優秀脚本賞:西川美和
 (ディア・ドクター)

 最優秀主演男優賞:笑福亭鶴瓶
 
(ディア・ドクター)

 最優秀主演女優賞:満島ひかり
 (愛のむきだし)

 最優秀助演男優賞:香川照之
 (剱岳 点の記)

 最優秀助演女優賞:余貴美子
 (ディア・ドクター)
 最優秀新人男優賞:西島隆弘
 (愛のむきだし)
 最優秀新人女優賞:満島ひかり
 (愛のむきだし)

 

外国映画・ベスト10

第1位

「レスラー」


(監督:ダーレン・アロノフスキー/出演:ミッキー・ローク、マリサ・トメイ)

評: この物語は、実に愚鈍な男の話である。共感する人は正直少ないと思うし、本作を薦める自信もさほど無い。だが、本作は極めて個人を扱った作品であるにも関わらず、主人公が「神の羊」、すなわち「キリスト」に昇華されるまでを描いた、筆舌し難いが素晴らしい映画なのである。レスリングを通してしか、愛を証明できなかった男。だが想いは止め処なく純真なのだ。何故ならば、レスリングの世界があまりにも眩く、誇り高い次元なのだというのに気付かされてしまったからである。だからこそ、男は最後まで「レスラー」であり続けるのだ。傑作!
キネマ旬報ベストテン5位。 
第2位

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」


(監督:デヴィッド・フィンチャー/出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット)

評: 80歳で生まれ、0歳で死んでいく、常人とは正反対の流れを生きた男の話である。奇奇怪怪、奇妙奇天烈かもしれない。ただし、80歳で生まれようとも歩む道程は、常人とは変わらない。無論、「運命」なんて偶然も例外に通用しない。時計を正反対に回しても、失ったものは還ってこないのと同様、男の人生も「得る」だけのものではない。我々と変わらず、人との出会いと別れがある。そして決して失うことの無い要素もあるのである。いつしかベンジャミンと己の過程を比較してしまう、人生哲学のような面白さが備わっているのといえる。
第3位

「愛を読むひと」


(監督:スティーヴン・ダルドリー/出演:ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ)

評: ケイト・ウィンスレット扮する、謎のヒロインはすなわち、愛を読んで欲しかったひと。彼女は純粋過ぎるゆえに、純粋な愛を示してくれた少年と共に、一夏を過ごす。本作の鍵は「ヒロインは何故、少年に小説の音読を求め続けたのか」という点。それを皮切りに様々な伏線を辿って、辿って、辿り着いた先に見える真実はあまりにも切なく哀しい。秀逸な脚本である。真実を知ってしまった瞬間、彼女の行動の全てがフラッシュバックし、涙を抑えることが出来なかったのだから。ヒロインの背負った人生を美しく体現したケイトは、名女優の仲間入りを果たしたと言える、渾身の人間ドラマだ。キネマ旬報ベストテン6位。
第4位

「イングロリアス・バスターズ」


(監督:クエンティン・タランティーノ/出演:ブラッド・ピット、クリストフ・ヴァルツ)

評: タランティーノは激怒した! その昔、ナチスドイツが敷いた思想に数多くの罪の無い、また才能に溢れたドイツ人映画監督が巻き込まれてしまっていたことを! 映画とファシズムの繋がりを、史実を捏ね繰り回した壮絶な復讐劇と共に断絶した娯楽大作である。登場人物達が巧みに織り成す長い長い会話までも、緊張感溢れる活劇にしてしまった手腕に素直に脱帽。60年代欧州映画の趣きながら、中身はハリウッド。と思いきや、言語も英語 、ドイツ語、フランス語のみならず、怪しいイタリア語までも飛び出す不可思議な面白さ。主役を完全に喰らった、ナチス将校を演じるクリストフ・ヴァルツの怪演は紛れも無いアカデミー賞級である。キネマ旬報ベストテン10位。
第5位

「チェンジリング」


(監督:クリント・イーストウッド/出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ)

評: 1930年代、米・ロサンゼルスで実際に起こった子供の連続誘拐殺人事件に焦点を当てた、クリント・イーストウッド28作目の監督作である。事件の影で渦巻くロス市警の怠惰な陰謀に果敢に立ち向かっていく母親の姿を力強い筆致で描かれており、観る者にたじろぐ余裕すら与えない。それどころか、次々に掌を返され、真相に一歩一歩近づいていく構成に胸が詰まるほど興奮させられる。ポン・ジュノの「母なる証明」に納得出来なかったのは、本作のアンジェリーナ・ジョリーの演技にまさしく「母なる証明」を垣間見たからである。息子を最後まで信じ続けた究極の母性愛に涙し、また前向きな余韻に浸れる。映画の旨みがもたらす後味に、「傑作を生み続ける男」イーストウッドの凄みも滲んでいるのだ。キネマ旬報ベストテン3位。
第6位

「扉をたたく人」


(監督:トム・マッカーシー/出演:リチャード・ジェンキンス、ヒアム・アッバス)

評: 所謂、「9.11」以後のアメリカに根深く浸透する、不信がもたらす移民差別を訴えた社会派ドラマである。画面の背景からワールド・トレード・センター・ビルが消え失せてしまった、ニューヨークの街並みを舞台に、老教授とシリアの移民青年との<ジャンベ>というアフリカン・ドラムを通したドラマから一転、移民達のすぐ足元に存在する厳しい排除姿勢がもたらす悲劇を、リチャード・ジェンキンスの心揺さぶる名演を以ってして浮き彫りにしていく。入国管理局の窓口に向かって「我々はなんて無力なんだ!」と吼える彼に、差別意識が癒える事の無いアメリカの現状と行き場の無い諦観を垣間見た。鑑賞後、あるシーンでのジャンベの余りにも強すぎる音色が、いつまでも脳幹に反芻しているのである。
第7位

「シリアの花嫁」


(監督:エラン・リクリス/出演:ヒアム・アッバス、マクラム・J・フーリ)

評: 国境を越えると、祖国へは帰れない。中東、シリア側から見たイスラエルの関係を述べると、まさしくその一文に尽きる。花婿の待つイスラエルへ嫁ぐことになった 、占領下にあるシリアに住む女性とその家族の一日の物語である。「中東和平」の実現の難しさを如実に表しているだけではなく、国境を越える、超えられないを巡り、境界線での双方のやり取りも滑稽に映し、強烈なカリカチュアとして印象付けられる。しかし、国と国とのいがみ合いを他所に、花嫁は力強く決断するのだった。「一歩踏み出し、さらに歩き続ける勇気」として、壮麗なメッセージを発する幕切れに拍手。
第8位

「グラン・トリノ」


(監督:クリント・イーストウッド/出演:クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン)

評: 第5位に続いて、クリント・イーストウッド作品である。チェンジリングが母性愛を示すならば、本作はイーストウッドが全世界に向けて発信する「究極の良心」をスクリーンに押し当てた、映画の中の映画、本物の映画なのだ。イーストウッド自ら扮する差別主義の頑固爺と、ベトナム系移民の少年との交流を 、時にブラックなユーモアを織り込みながら華麗に描く。米国産車の象徴でもあったフォード の名車、グラン・トリノをキーアイテムに、時代の変遷も見事に活写する。そして、肝心の変遷を担っていく少年を守る為に実行した、イーストウッドの選択にも驚愕させられる。「内ポケットに忍ばせておくべきは、銃ではなく、 ジッポライターで充分」なのかもしれない。……打ち震える。キネマ旬報ベストテン1位。オールタイムベストテン10位。
第9位

「チェイサー」


(監督:ナ・ホンジン/出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ)

評: 隣国、韓国が傑作を生み続ける。邦画大作サスペンスが「ゼロの焦点」のリメイクで満足している傍ら、当該国では新鋭監督のナ・ホンジンが丘陵地帯を舞台にした、キリスト教との因果も絡めた、戦慄サスペンスをこしらえた。連続殺人猟奇犯と元刑事との深夜の追走、韓国警察の怠惰な体質、鉄拳入り乱れる取調べ、証拠不十分と分かり不敵な笑みを浮かべる傷だらけの犯人。観客に興奮と絶望のアップダウンを体感させ続け、段々と不快指数の割合を上げていく演出に参ってしまう。最後まで報われない映画ではある。だが、まるで臨場しているかのようなリアリズムが備わっており、「ノンフィクション」を題材にした作品としての姿勢は正しいのである。キネマ旬報ベストテン4位。
第10位

「あの日、欲望の大地で」

(監督:キジェルモ・アリアガ/出演:シャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガー)

評: 冒頭、メキシコの荒野をロングカットで映すキャメラ。その中央で「何か」がメラメラと燃えている。不可思議な導入で我々の意識を釘付けにすると、舞台は変わり、アメリカのとある町。行きずりの男と一夜を共にしたレストラン経営の女が窓の外を見ながらボンヤリと煙草の煙を燻らす。まるで寸分も繋がりを持たないシーンが入れ替わり立ち代わり、挿入され、混乱するものの、いつしか全てのシーンが繋がり、全てのシーンに意味を兼ね備えた時系列ドラマであると分かるだろう。閃いたら、そのままクライマックスまでも一直線。親と子の、遺伝子諸々含めた断ち切れない繋がりに哀しみとも喜びとも取れない、複雑なカタルシスを得られる。秀逸な脚本が生み出すストーリーラインにも酔いしれるだろう。出来れば、予告編を見ずに、本編をご覧頂きたいところ。

外国映画・個人賞

最優秀監督賞
クリント・イーストウッド
(グラン・トリノ)

最優秀脚本賞
クエンティン・タランティーノ

(イングロリアス・バスターズ)

最優秀主演男優賞
ミッキー・ローク

(レスラー)

最優秀主演女優賞
ケイト・ウィンスレット

(愛を読むひと)

最優秀助演男優賞
クリストフ・ヴァルツ

(イングロリアス・バスターズ)

最優秀助演女優賞
ヒアム・アッバス

(扉をたたく人)

最優秀新人男優賞
該当者なし

最優秀新人女優賞
ジェニファー・ローレンス

(あの日、欲望の大地で)

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