外国映画・ベスト10 |
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第1位
「レスラー」
(監督:ダーレン・アロノフスキー/出演:ミッキー・ローク、マリサ・トメイ)
評: この物語は、実に愚鈍な男の話である。共感する人は正直少ないと思うし、本作を薦める自信もさほど無い。だが、本作は極めて個人を扱った作品であるにも関わらず、主人公が「神の羊」、すなわち「キリスト」に昇華されるまでを描いた、筆舌し難いが素晴らしい映画なのである。レスリングを通してしか、愛を証明できなかった男。だが想いは止め処なく純真なのだ。何故ならば、レスリングの世界があまりにも眩く、誇り高い次元なのだというのに気付かされてしまったからである。だからこそ、男は最後まで「レスラー」であり続けるのだ。傑作!
キネマ旬報ベストテン5位。 |
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第2位
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」
(監督:デヴィッド・フィンチャー/出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット)
評: 80歳で生まれ、0歳で死んでいく、常人とは正反対の流れを生きた男の話である。奇奇怪怪、奇妙奇天烈かもしれない。ただし、80歳で生まれようとも歩む道程は、常人とは変わらない。無論、「運命」なんて偶然も例外に通用しない。時計を正反対に回しても、失ったものは還ってこないのと同様、男の人生も「得る」だけのものではない。我々と変わらず、人との出会いと別れがある。そして決して失うことの無い要素もあるのである。いつしかベンジャミンと己の過程を比較してしまう、人生哲学のような面白さが備わっているのといえる。 |
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第3位
「愛を読むひと」
(監督:スティーヴン・ダルドリー/出演:ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ)
評: ケイト・ウィンスレット扮する、謎のヒロインはすなわち、愛を読んで欲しかったひと。彼女は純粋過ぎるゆえに、純粋な愛を示してくれた少年と共に、一夏を過ごす。本作の鍵は「ヒロインは何故、少年に小説の音読を求め続けたのか」という点。それを皮切りに様々な伏線を辿って、辿って、辿り着いた先に見える真実はあまりにも切なく哀しい。秀逸な脚本である。真実を知ってしまった瞬間、彼女の行動の全てがフラッシュバックし、涙を抑えることが出来なかったのだから。ヒロインの背負った人生を美しく体現したケイトは、名女優の仲間入りを果たしたと言える、渾身の人間ドラマだ。キネマ旬報ベストテン6位。 |
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第4位
「イングロリアス・バスターズ」
(監督:クエンティン・タランティーノ/出演:ブラッド・ピット、クリストフ・ヴァルツ)
評: タランティーノは激怒した! その昔、ナチスドイツが敷いた思想に数多くの罪の無い、また才能に溢れたドイツ人映画監督が巻き込まれてしまっていたことを! 映画とファシズムの繋がりを、史実を捏ね繰り回した壮絶な復讐劇と共に断絶した娯楽大作である。登場人物達が巧みに織り成す長い長い会話までも、緊張感溢れる活劇にしてしまった手腕に素直に脱帽。60年代欧州映画の趣きながら、中身はハリウッド。と思いきや、言語も英語
、ドイツ語、フランス語のみならず、怪しいイタリア語までも飛び出す不可思議な面白さ。主役を完全に喰らった、ナチス将校を演じるクリストフ・ヴァルツの怪演は紛れも無いアカデミー賞級である。キネマ旬報ベストテン10位。 |
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第5位
「チェンジリング」
(監督:クリント・イーストウッド/出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ)
評: 1930年代、米・ロサンゼルスで実際に起こった子供の連続誘拐殺人事件に焦点を当てた、クリント・イーストウッド28作目の監督作である。事件の影で渦巻くロス市警の怠惰な陰謀に果敢に立ち向かっていく母親の姿を力強い筆致で描かれており、観る者にたじろぐ余裕すら与えない。それどころか、次々に掌を返され、真相に一歩一歩近づいていく構成に胸が詰まるほど興奮させられる。ポン・ジュノの「母なる証明」に納得出来なかったのは、本作のアンジェリーナ・ジョリーの演技にまさしく「母なる証明」を垣間見たからである。息子を最後まで信じ続けた究極の母性愛に涙し、また前向きな余韻に浸れる。映画の旨みがもたらす後味に、「傑作を生み続ける男」イーストウッドの凄みも滲んでいるのだ。キネマ旬報ベストテン3位。 |
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第6位
「扉をたたく人」
(監督:トム・マッカーシー/出演:リチャード・ジェンキンス、ヒアム・アッバス)
評: 所謂、「9.11」以後のアメリカに根深く浸透する、不信がもたらす移民差別を訴えた社会派ドラマである。画面の背景からワールド・トレード・センター・ビルが消え失せてしまった、ニューヨークの街並みを舞台に、老教授とシリアの移民青年との<ジャンベ>というアフリカン・ドラムを通したドラマから一転、移民達のすぐ足元に存在する厳しい排除姿勢がもたらす悲劇を、リチャード・ジェンキンスの心揺さぶる名演を以ってして浮き彫りにしていく。入国管理局の窓口に向かって「我々はなんて無力なんだ!」と吼える彼に、差別意識が癒える事の無いアメリカの現状と行き場の無い諦観を垣間見た。鑑賞後、あるシーンでのジャンベの余りにも強すぎる音色が、いつまでも脳幹に反芻しているのである。 |
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第7位
「シリアの花嫁」
(監督:エラン・リクリス/出演:ヒアム・アッバス、マクラム・J・フーリ)
評: 国境を越えると、祖国へは帰れない。中東、シリア側から見たイスラエルの関係を述べると、まさしくその一文に尽きる。花婿の待つイスラエルへ嫁ぐことになった
、占領下にあるシリアに住む女性とその家族の一日の物語である。「中東和平」の実現の難しさを如実に表しているだけではなく、国境を越える、超えられないを巡り、境界線での双方のやり取りも滑稽に映し、強烈なカリカチュアとして印象付けられる。しかし、国と国とのいがみ合いを他所に、花嫁は力強く決断するのだった。「一歩踏み出し、さらに歩き続ける勇気」として、壮麗なメッセージを発する幕切れに拍手。 |
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第8位
「グラン・トリノ」
(監督:クリント・イーストウッド/出演:クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン)
評: 第5位に続いて、クリント・イーストウッド作品である。チェンジリングが母性愛を示すならば、本作はイーストウッドが全世界に向けて発信する「究極の良心」をスクリーンに押し当てた、映画の中の映画、本物の映画なのだ。イーストウッド自ら扮する差別主義の頑固爺と、ベトナム系移民の少年との交流を
、時にブラックなユーモアを織り込みながら華麗に描く。米国産車の象徴でもあったフォード
の名車、グラン・トリノをキーアイテムに、時代の変遷も見事に活写する。そして、肝心の変遷を担っていく少年を守る為に実行した、イーストウッドの選択にも驚愕させられる。「内ポケットに忍ばせておくべきは、銃ではなく、
ジッポライターで充分」なのかもしれない。……打ち震える。キネマ旬報ベストテン1位。オールタイムベストテン10位。 |
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第9位
「チェイサー」
(監督:ナ・ホンジン/出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ)
評: 隣国、韓国が傑作を生み続ける。邦画大作サスペンスが「ゼロの焦点」のリメイクで満足している傍ら、当該国では新鋭監督のナ・ホンジンが丘陵地帯を舞台にした、キリスト教との因果も絡めた、戦慄サスペンスをこしらえた。連続殺人猟奇犯と元刑事との深夜の追走、韓国警察の怠惰な体質、鉄拳入り乱れる取調べ、証拠不十分と分かり不敵な笑みを浮かべる傷だらけの犯人。観客に興奮と絶望のアップダウンを体感させ続け、段々と不快指数の割合を上げていく演出に参ってしまう。最後まで報われない映画ではある。だが、まるで臨場しているかのようなリアリズムが備わっており、「ノンフィクション」を題材にした作品としての姿勢は正しいのである。キネマ旬報ベストテン4位。 |
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第10位
「あの日、欲望の大地で」
(監督:キジェルモ・アリアガ/出演:シャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガー)
評: 冒頭、メキシコの荒野をロングカットで映すキャメラ。その中央で「何か」がメラメラと燃えている。不可思議な導入で我々の意識を釘付けにすると、舞台は変わり、アメリカのとある町。行きずりの男と一夜を共にしたレストラン経営の女が窓の外を見ながらボンヤリと煙草の煙を燻らす。まるで寸分も繋がりを持たないシーンが入れ替わり立ち代わり、挿入され、混乱するものの、いつしか全てのシーンが繋がり、全てのシーンに意味を兼ね備えた時系列ドラマであると分かるだろう。閃いたら、そのままクライマックスまでも一直線。親と子の、遺伝子諸々含めた断ち切れない繋がりに哀しみとも喜びとも取れない、複雑なカタルシスを得られる。秀逸な脚本が生み出すストーリーラインにも酔いしれるだろう。出来れば、予告編を見ずに、本編をご覧頂きたいところ。 |
外国映画・個人賞 |
最優秀監督賞
クリント・イーストウッド
(グラン・トリノ) |
最優秀脚本賞
クエンティン・タランティーノ
(イングロリアス・バスターズ) |
最優秀主演男優賞
ミッキー・ローク
(レスラー) |
最優秀主演女優賞
ケイト・ウィンスレット
(愛を読むひと) |
最優秀助演男優賞
クリストフ・ヴァルツ
(イングロリアス・バスターズ) |
最優秀助演女優賞
ヒアム・アッバス
(扉をたたく人) |
最優秀新人男優賞
該当者なし |
最優秀新人女優賞
ジェニファー・ローレンス
(あの日、欲望の大地で) |