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【掌・短編集〜ドリック風味〜】

 
 1「願い」



−私は悲しい−

−私は誰とも戦いたくない−

−私の前に現われる人はみな私を殺そうとする−

−しかし彼らもまた私と同じなのだ−

−私と同じで生まれた時から戦う方法以外何も知らない−

−相手を倒さなければ自分が殺られてしまう−

−私の住んでいる世界では老若男女区別無く永遠に戦いは続けられる−

−私もまたその一人−

−私は悲しい−

−私は誰とも戦いたくない−










――――次のニュースです。
昨月発売された人気格闘ゲーム「バトル・フィールド」の続編「バトル・フィールドSP」に大きな欠陥があることが判明しました。
前作の「バトル・フィールド」は迫力のある格闘とリアルな流血シーンで、ゲーム界における歴史的大ヒットを記録した作品ですが、続編である今回の「バトル・フィールドSP」では電源を入れても本来のトップ画面が表示されず、代わりにゲーム自体を批判する文面がエンドレスで表示されるという事です。
現在発売元の株式会社エレボスは原因の解明に急いでいます。
なおその文面は次の通りです。

−私は悲しい−

−私は誰とも戦いたくない−
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2「ぼくかみさまをみたよ」



ねえ、ママ! ぼく、かみさまをみたよ!

そう言ったらママは笑ってくれた。
「凄いわね、優ちゃん」って言って笑ってくれた。
だからぼく帰って来たパパにも言ったんだ。
「ねえ、パパ! ぼく、かみさまをみたよ!」って。
そしたらパパも笑ってくれた。
「凄いな優一!」って言って笑ってくれた。
一日でパパにもママにもほめられてぼくとっても嬉しかった。
だから次の日もぼく、二人に言ったんだ。
「パパ、ママ、ぼくきょうはカッパをみたよ」って。
そしたらまた二人とも笑ってほめてくれた。
でも本当はその日はカッパじゃなくて太ったヘビみたいなのを見たんだ。
カッパの方が偉そうだからつい嘘ついちゃったテヘヘ、ごめんなさい。
その次の日からもぼくは色んなものを見たよ。
妖精さんとか、天使さんとか、人魚さんとか・・・。
絵本で見た事あったからぼくみ〜んな名前が分かるんだよ♪ すごいでしょ?
でも、ぼくがそれをママに言ったらママ怒ったんだ。
「嘘つくんじゃありません優一!」って大きな声でぼくの事を怒った。
ぼくとっても怖かった。
それとママにほめてもらえるって思ってたからとっても悲しかった。
だからぼくパパにも言ったんだ。
パパならほめてくれるって思ったから。
でもパパもママと同じでぼくのことを怒った。
だからぼくは泣きながら布団に入ったんだ。
そして「なんでパパもママもぼくのことおこるの? ぼくホントにみたんだよ? みんなみたんだよ?」そう思って泣きながら寝たんだ。

次の日ぼくはとっても早起きできた。
でも起きてすぐにぼくは驚いた。
だってすぐ隣に悪魔がニ匹寝てたんだもん!
だからぼく悪魔を倒すためにママの包丁を持ってきてニ匹とも刺したんだ。
そしたら悪魔が「優・・・一・・・」ってパパとママの真似をしてぼくをだまそうとしたんだ。
でもぼく騙されなかったよ。
だっていくら声が似てても姿が悪魔なんだもん。
でも悪魔がずっとぼくのこと騙そうとするから、「パパのまねするな! ママのまねするな!」って言いながら何度も何度も刺したんだ。
そしたら悪魔が喋らなくなった。

「やったついにアクマのやつをたおしたぞ! パパ! ママ! ぼくアクマたおしたよ! ねえ、パパ・・・? ママ・・・? どこにいるの・・・?」










「どうですか先生、彼は治りそうですか?」
「いえ、長くなりそうですよ刑事さん、今の彼は5、6歳への退行・・・いわゆる子供返りの現象を見せています」
「本当なんですかそれは?」
「ええ、様々な検査の結果ですからおそらく間違い無いでしょう」
「では事件について質問するのは?」
「そんなの無理に決まっているじゃないですか。今の彼に聞いたって無駄な時間を使うだけですよ。ただ・・・」
「ただ、何ですか?」
「・・・ただ犯人が彼である可能性は非常に高いと思います」
「何故そんな事が?」
「ここに来てずっと様々な物語を喋っているんですが、彼はその最後で、必ず悪魔を殺しているんですよ」
「悪魔・・・ですか。それは彼が殺した親の事なんですか?」
「ええ、抽象的な表現ですから確定は出来ませんが、状況を考えればそう考えるのが妥当と言えるでしょう」
「そうですか」
「・・・この話が世間に知れたら『悪魔はお前だろ』とか言われるんでしょうね」
「そうかもしれませんね」
「でも私には彼の気持ちも少し分かるんですよ・・・。あのまま我慢していたら自分が壊れてしまう・・・そう考えた彼の苦汁の決断だったんじゃないでしょうか」
「そうは言っても殺人は殺人です」
「ええ・・・それは分かっています。でも私には分からないんですよ。たった一人の息子に殺意を抱かせるような事をして、そのくせ優しい自分の記憶を植え付けて死んだ後も子供を苦しめ続ける・・・そんな人間とそれを殺した人間。一体どっちが悪魔に近い人間なんでしょうか・・・」

ねえ、ママ! ぼく、かみさまをみたよ!

ねえ、パパ・・・? ママ・・・? どこにいるの・・・

ねえ、ママ! ぼく、かみさまをみたよ!

ねえ、パパ・・・ママ・・・
 


3「ぼくの大切な」



「はぁぁ、ようやく死んでくれたよ」

白い布をかけられたタマを前にして母さんが大きなため息をつく。

「母さん何てこと言うんだよ! ぼくの大切なタマが死んだんだよ?」
「うるさいわね、大きな声出さないで。大体何偉そうに言ってんのよ? あんたあの汚たならしい口に薬入れたり、歩けなくなった後のトイレの世話とか一つでもした?」
「っ・・・・」

たしかにぼくは何もできなかった。
でもしなかったんじゃない。
ぼくがまだ小さくてできなかっただけなんだ。

「やれやれ、まったく何もしてないくせに色々言うんじゃないよ」

そう言って母さんは肩を回しながらトイレに立った。

「でも・・・でも・・・」

一人になった部屋でぼくは布をゆっくりどける。



でも・・・でも・・・タマはぼくの大切な・・・










                                           ・・・・・ぼくの大切な玉美ねえちゃんなんだ・・・・・
 


4「三度目の涙」



都会から遠く離れ、近代化の洪水にいまだ襲われていないのが一目で分かる小さな村の駅に、一人の若い女が降り立った。
歳はだいたい二十歳前後に見える。
女はそこから穏やかな田舎道を一時間ほど歩き、これまた小さな民宿へと入っていった。

「おやおや、こんな田舎までよく来なすった。さあさあ、奥に入ってくだされ」

民宿の中で女を出迎えたのは、ゆうに80にはなっているだろう老人だった。
しかしその姿に弱々しいものではなく、自然の中で暮らし続けている中で培った強さが、その顔のしわから、皮の厚くなったでこぼこの手からにじみ出ている。

「それにしても何年振りかのう・・・こんな綺麗な女性(ヒト)を出迎えるのは。昔は人の出入りも盛んじゃったんじゃが、今は職業、民宿経営と言うのも嘘をついているようなもんじゃ。おっと、お茶も出さんで失礼した。ちょっと待っていて下され」

そう言って老人は台所に向かい、数分後、盆の上に急須と二つの湯飲みをのせて戻ってきた。

「どうもお待たせ致しました。いやいやどうもこの歳になるとどこに何が置いてあるのかも忘れるようになりまして・・・」

老人は軽く笑いながら座布団の上に腰を下ろした。
それから女のほうに目をやると、彼女は壁に掛けられた一枚の写真を熱心に見つめていた。

「それが気になりますかな?」
「・・・・・」
「綺麗なもんでしょう? ついこの前まで近くの山に咲いてたんですよ。それがなんとやらを建てる言うて切り取ったんじゃが、結局何も建ちゃあしなくて・・・全くお上も心無い事をなさるわい」
「・・・・・」
「―――その桜に、ある願掛けをした男女がおりましてね。今から何十年も前・・・まぁこの私がまだ若かったぐらい遠い昔ですわい。この野菜しか無いようなこの村も戦争に巻き込まれまして。米はお国様に献上、男の命もお国様に献上。まったくこんな田舎の芋男連れて行って、天皇様は何がさせたかったんじゃろうねぇ」

老人はそう言って愉快そうに笑う。

「それでその願掛けをした二人というのがありがちな話ですが、恋人同士なわけですわい。村を出る前に『僕は必ずこの桜の下に戻ってくる。だからそれまで・・・』男がそう言うと『私も、その時までこの木の下でお待ちしております』と女が言う・・・。本当にそんな話があるのかどうか疑いたくなるような台詞じゃが、本人達にとっては真面目も真面目、大真面目じゃ」

老人は湯飲みを手に取り、乾いた口を少し潤す。

「そして終戦後・・・男は運の良い事に生き残って帰って来るんじゃなぁ。敵を見ては逃げ、敵を見ては逃げしてきた男の作戦勝ちというやつじゃい」
「・・・・・」

部屋の中にまた愉快そうな笑い声が広がっていく。
しかし女は少しの反応も示さず、じっと黙って写真を見続けている。

「だけれども意気揚揚と村に帰ってきた男に待っていたのは空白だけじゃった。家も畑も井戸も牛舎も何も残ってはおらんかった。何を考えたか知らんが、相手さんが村に爆弾を振りまいたんじゃなぁ」
「・・・・・」
「男は探し回った。自分達の家じゃった所から少しずつ、少しずつ瓦礫を片付けながら。・・・それでも結局最後までお目当ての人は見つからんかった。じゃが、だからこそ男は喜んだんじゃな。探してもおらんという事は、そこには居んかったということじゃからな」
「・・・・・」
「それで男は代わりに待つ事にしたんじゃ。 −桜の木の下 待つのはこの下 貴女がいなくて待てぬなら 待てる私が待ちましょう− とな」

老人はリズミカルに言葉を流すと、嬉しそうに口元をほころばせながら、湯飲みに口をつけた。

「その後、男は木の側に一軒、家を建てた。裏には畑をこしらえて、戻ってきた村人や新しく入ってきた人達に料理を出し、そのお代で暮らし始めたんじゃ。そしたら男を手伝いたいという婆さまがあらわれての。その婆さまの料理がこれまた美味いんじゃなぁ。男は『こちらこそ』と喜んで、すぐに住み込みで手伝ってもらった」

料理の味を思い出すかのように、湯飲みを両手で持ちながら、目を閉じて窓の外の空へと首を傾ける。

「歳は母と子ぐらいの二人なんじゃが、まるで恋人同士みたいじゃった・・・いや、少なくとも男にとってはその通りじゃった。だけれどもやはり婆さま。ニ、三年ですぐに逝ってしまって、男はまた取り残されよった。まったく、幸せな時間ほど早いものは無いの―――」
「でも・・・今は終わってない・・・・・」

唐突に、女は言葉の終わりを遮るかのように呟き、老人の方を向いて立ち上がった。

「・・・そうじゃな。お前さんの言う通りじゃ」

老人は窓から視線を外し、目を細めたしわくちゃの笑顔で彼女の顔を見据える。

「ずっとお待ちして・・・おりました・・・・・」

彼女はゆっくりと膝を折りながら彼の側に寄ってゆく。

「・・・私はもうこのような歳じゃぞ?」

彼もその顔をみつめたまま、彼女の動きに合わせてゆっくりと顔を降ろして行く。

「それは・・・貴方も同じでした」
「・・・そうじゃな。お前さんの言う通りじゃ・・・」

老人は遠慮がちなゆっくりとした動きで、彼女の事を抱き寄せた。
しばらくすると部屋にはかすかな泣き声が広がり始め、薄桜色のブラウスはしわを水路のように伝ってくる水滴で濡れて、所々が斑点模様になっている。

一度目 彼は彼女から離された。  老人は一人で笑っていた。
二度目 彼は彼女に取り残された。 老人はまた一人で笑っていた。
三度目 彼は彼女を抱きしめている。老人はただただ泣いている。

彼も彼女も知っている。二度目の彼女も知っていた。
老人にとってはこの咽び泣く声が、一番楽しい笑い声なのだと。

なぜなら今は彼女に触れることができるから。
笑っていようと泣いていようとこの瞬間(とき)が。
長く長く待って、ようやく永遠に抱きしめた幸せだから――――




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