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険しい峰の頂に、漆黒の塔が建っていた。
麓には湖が広がっているがとても生き物が生息しているようには思えなかった。

朝霧に隠れた塔は静かに佇んでいるだけだった。
偏に不気味な雰囲気だけを漂わせて。
今、一発の雷鳴が響いた。
 
一人の少年が天辺に姿を現した。
翼を負った背中はゆっくりと宙へ飛んでいった。
そして、おもむろに飛翔んだ。
羽根は黒く、暗く、重く、悲しい。
しかし、形容できないほどに、美しかった。
翼は羽ばたくことなくただ風に乗って真っ直ぐに山を降りていった。
漆黒の髪を全て後ろになびかせて。

息を吐いた。
吐息は白く空気を染め、そして消えた。
少年は微笑むと一度、翼を羽ばたかせた。
躰をさらに加速させて、山を下っていく。
ついに少年は見えなくなった。
追うように数羽の黒い翼が山を降った。



[ Albireo



「やっと・・・だ」

青年は立ち上がりざまにそう口にした。
その目で真っ直ぐと、見えないはずの戦場を見、そして据えた。
数では多いはずの自軍の劣勢。
なんとか膠着状態までもっていったがそこで、幾つの命が散っていったのか。
真っ白な服に身を包んだ少年は純白の少し長めの髪を無造作に垂らしていた。
髪質はやわらかく、真っ直ぐで、サラサラとしている。

両脇に刺してある小さな二刀がゆれた。
部屋には拳大のへこみが幾つも見られた。

彼は左に差した刀をすっと抜き、切っ先を見つめる。
研ぎ澄まされた刀身は彼の顔をくっきりと映した。
白金の鞘に剣を入れなおす。

今度はすばやく左の刀を抜くと、そのまま下に振り上げる。
と同時に右の刀を左手で抜き、突きを入れる。
その後は、何をしたか速すぎて見えない。
5、6秒した後で、左の鞘に刀を刹那のうちに入れ、そして左の刀をゆっくりとしまった。

少年は微笑むと、歩き出した。



二つの色が、その場を埋め尽くしていた。
黒白。
天魔。

一人の白の斬撃が黒の首筋を捕らえた。
崩れる黒の心臓を突こうとしたとき別の黒が白を一閃した。
沢山の黒白が転がっていた。
先程からいくつもの白を消している黒もついに地に伏し、そして消えていった。

暗黒の塊がやって来た。
先頭には幼げな少年が飛んでいる。
飛群は白い集団の中に飛び込んでいった。
そして瞬く間に場はオセロのように黒く染まった。





強い光が地上を埋めた。
瞬間、全てを多いつくし、何も見えない。
これは白い少年からの伝達だった。
白き軍は最期の決戦、そして勝利へと進んでいった。

少年は、つぶやいた。

「全ては、俺次第だ」





一人の少年がいた。
全身に黒い服を着て、さらに周りには沢山の白が転がり、沢山の黒が立っていた。
日は南中して、今は一番高いところにいる。
木々に光が反射した。

おもむろに少年の背中が光り始めた。
光は形状を変え翼になっていく。
そして黒く染まり、見事に実体化した。
見ると他の黒には既に翼があった。

「行こうか」

黒翼は飛翔した。
それに続くようにいくつもの黒が後を追った。
黒と白が混じるも、それは灰色になることはなく、見る見るうちに黒く染まる。
そして黒は進み、ついに白は殆どなくなってしまった。

盤上は数で劣るはずの黒色に染まりつつあった。




一人の青年がいた。
純白の衣装に身を包み、手にした大剣は次々に黒を1つから2つへ変え、そしてすぐに0にした。
見ると周りは殆どが白で黒は何とか粘っているといった感じである。
すると北北西の方向から真っ直ぐこちらに向かってくる黒い集団が見えた。
それは白と交差すると突如として歪み、地を灰色に染めた。

「着たか」

青年は羽から一本羽根を抜くとそれを両手で握った。
そしてそれはぱぁっと光を発し、一瞬黒をも飲み込んだ。

「また、光・・・」

少年は白を次々に塗りつぶしながら言った。
そして恐ろしい計画を知ることとなった。

「報告!塔に大量の敵が・・・、数はおよそ・・・残っている人数の、軽く倍・・・」
「なぁ!?」

少年は驚きを隠しきれずに、しかし冷静に襲ってくる敵を切り捨てていった。
頭の中で情報を処理しつつ、敵をしとめながら。

「更にここにいた敵も次々に塔に向かって移動しつつあります!!」

白い城の周りは黒に染まり、黒い塔の周りは白く染まる。
そして、白の周りの黒は、黒の周りの白より、圧倒的なほどに小さく、弱い。

「ちぃっ!これより撤退して魔王陛下を守る!!」
「このまま攻め入って先に神を・・・」
「バカ!特攻するときに神を独りにすると思うか!?」

そして、黒が白から遠ざかる。
少年も急ごうと翼を発動させ始めたその時、斬撃が彼の黒翼を貫いた。
痛みが走り、翼は解除された。

「くぅ・・つっ・・・」
「何者だ!?」

見ると純白の大きな羽根を持つ少年が、そこにいた。
少年は斬った敵を見ずに言い放った。

「行け!王を守れ!!」
「しかし!それでは・・」
「黙れ!これは命令だ」

傍らの黒はそっとうなずくと移動を始めた。
少年はにこりと笑った。
そして、二刀を持つ白き少年を見て、愕然とした。
彼らは互いの顔を見合った。
髪型こそ違えども、敵対してはいるけれど。
それは気が遠くなるほど整い、美しい、
同じ顔。
そして、ゆっくりと少年は立ち上がる。

「お前は何だ?なぜここに残り、僕を襲う」

黒は白を見つめながら、言った。
白はその目を真っ直ぐと見つめる。
不審と、興味。
視線が絡まる。
そして、

「ルシファー」
「な・・なぜ、僕の名を?」

純白を纏った少年はふうとため息をついた。
そして再びルシファー、自らと同じ顔を見やる。
目は驚きと恐怖、好奇心との狭間でゆれていた。
恐れながらも、答えを待っていた。

「なるほど、何も知らないのか。ルシファー。神の子が」
「・・・神?」

最初は回復のための時間稼ぎのつもりだったルシファーも答えに
というより、目の前の自分に吸い込まれていた。
声も、同じ、背も。
ただ違うのは意識が自分ではない。
自分とは違う、自分がいた。

「神が2つの御子を産んだのは190年3ヶ月と7日前。そのときその直属の部下だった使徒・・・それがサタン」

サタン。
最上級階級を持つ、魔族の中の神的な存在。
今は年老い、実質上の権力はルシファーにあった。
ただ、その奇抜な発想は老いることを知らず、ルシファーが唯一尊敬している人物でもある。

「サタンが・・・お前らの犬だったと?」
「そうだ、そして愚かなことにサタンは・・」

その瞬間ルシファーは目の前にあった折れた刀をリエルに思い切り投げつけた。
辛うじてリエルは避けると刀はその後ろにあった岩にめり込んだ。
そして、ルシファーは謎の双子を睨んだ。
怒りが、こみ上げる。
だが冷や汗が額を流れたのを感じるも、話をやめることはなかった。

「・・・サタンは神を裏切り、御子の中の一つを連れ去った。それが、お前だ。そして俺はお前の双子の兄、そして、神の子。ガブリエル」


間が生まれた。
なにもない。
ただ中に広がる何かがはじけたような。
生まれたような。
抗う術のない真実か。
まるで今が平和であるような。
いや、むしろ互いが死んでいるような。
そんな何もない時間。
沈黙。
そして、それをこじ開けたのはルシファーだった。

「分からない」

つぶやいた。

「何が」
「なんで話した?」

漆黒の目は未だに睨み続けていた。
ガブリエルはふっと笑った。

「さてな」

ようやく塔の周りを黒が囲み、徐々に包囲がいびつになる。
それも他人事のように時間は流れた。
遠い、遠い。
出来事のように。

「それを僕が信じるとでも?」
「関係ないさ。お前が信じようとも、信じまいとも。これは事実」

ガブリエルは塔を見やった。
楕円は更に歪んでいた。

「サタンも根っからの悪というわけではないと聞いている。おそらくお前をわが子のように育てていただろう・・・だが」

ガブリエルは脇に差した双剣を取った。
表には白い髪の、裏には黒い髪の少年を剣は映した。

「俺とお前は、一つでないといけなかった」
「ふざけるな」

ルシファーは背負った大剣を思い切り振り切った。
二刀を交差させ受けるガブリエル。
ルシファーは体重を乗せた。
銀の交差する嫌な音が響く。
刃がこぼれる。

「そんな話、誰が信じるか」
「ではなぜ敵側にお前と同じ顔の奴がいる?」

ガブリエルは剣を振り払うと一文字に左の刀で斬る。
それを皮一枚で避けると後方に1回転して起き上がった。
腹を押さえる手に、ぬるっとした嫌な感触と、痛み。

「ここに味方を何人か集めてお前をおびき寄せ、さらに足止めをした。お前さえいなければ、俺らの勝ちだ。」
「ざ・・けるなぁ!!」

ルシファーは翔けた。
一気に相手の懐まで距離をつめるとだらりと下げた大剣を振り上げ、右腕を奪った。

「お前さえ・・・」

なくなった右の腕に光がうろついた。
そしてゆっくりと、根元から腕が治っていく。
光は指先に集まり、そして消えた。
と同時に、互いの体が光に満ちた。
ガブリエルはゆっくりと落ちた刀を拾う。
その時も相手から目を離すことはなかった。
互いに相手を倒すため、殺すためのことを考えて。
見つめていた。

「殺す・・・」

同じ声、同じ言葉。
2つのsamenessが重なった。


剣戟は響く。
剣戟は踊る。
二人の空間を守るかのように。
二人の時間を包むかのように。
剣戟は舞った。
出会うはずのない世界で黒白はめぐり合い、互いを薄くしていく。
ただ、過ちを消し去ろうとしているのだろうか。
勝った方が正しくなるこの世界で。


左手一本で大剣を握り締め、漆黒は左手で右から左へ振り下ろす。
体を左に逸らし、そのまま左の刀で首筋を狙う。
それを漆黒は右手で防ぐ。
右手は不十分な体制からの攻撃にも関わらず、肉が抉れ、骨にかかり、ようやく止まった。
痛みは大変なものだろう。
しかし、彼は眉を動かしただけで、左手に持った太刀を突いた。
一撃は純白の心臓を抉ることはなく、空を切る。
白は左手の剣を離し、右に体を移動して右の刀で更に首筋を狙う。
その一撃を、今度は肘で受け止める。
衝撃で太刀が落ちた。

武器を封じられた形になった純白に漆黒は頭を振り下ろす。
頭突きは純白の脳天を捉え、白は一瞬意識が遠ざかりながらも後ろに飛んだ。
白は太刀を拾い、黒も二刀を握った。
武器が入れ替わる。
双方の体は悲鳴を上げ、双方肩で息をしている。
傷はすぐに治るものの、ここが限界だった。
もはや次の一撃、直すほどの力は残っていないだろう。
言葉はなかった。
同じ顔は同じ顔を見やり、そしてそれを壊すことを願った。
そして、再びの間が生まれた。
互いの目を睨み、動かない。
気を抜けば一瞬で首と胴が分かたれ、回復のできない致命傷となるだろう。
塔の周りの黒白はついに少なくなり、数さえも確認できないほどに減っていた。
双方が限界であった。

白が、動いた。
一気に間合いをつめ大剣を横に薙ぎ払う。
速度は衰えることを知らず、むしろ先程よりも速いような気すら漂わせるほどだった。
それを黒はしゃがんで避けると、そのまま水面蹴りを放つ。
白は軽く跳び、そのまま黒の脳天に大剣を突き立てる。
それを寸でのところでかわし後ろにはねるも、一気に間合いを詰められ、起き上がった瞬間、心臓を突かれた。
そのまま白は大剣を地面に突き刺した。
黒は串刺しにされ倒れた。
力が見る見るうちに抜けていく。
黒は刺さった刀を握った。

「負けた・・よ・・・殺せよ・・・」
「いや・・・だね」

白はゆっくりと刀に絡めた黒の指を丁寧に外す。
指の一つ一つから血が滴る。
刀を抜いた。
黒い心臓から血が湧き出る。
暗紅色に染まったそれは体を伝う。
ぽっかりと開いた穴から噴出し、滴り、落ちる。

「お前は・・・堕ちろ。そして、生きろ。下で」
「なっ・・・」

同時にガクリと白は黒の元で膝をついた。
既に彼の精魂も尽きている。
膝に置いた白い左手から血がぽたぽたと垂れた。
白は紅く染まった手を黒の胸に置いた。
雫は段々とこぼれる程度になっていった。

「お前は神の子だ。・・・神が死んだ今。お前さえ存在すれば、世界は終わらない」
「神が・・・死んだ?」

純白の髪の奥にある眸は雫を一つ、こぼした。

「ああ、とっくにな。・・・俺も全ての反逆者を殺した後、灰に還る」

漆黒は返す言葉も見つからず、回復しつつある体で聞いていた。
今ならば立ち上がってまた反撃できるであろうが、そんな考えは片隅にもなかった。

「お前は生きろ、ここにいてはお前も殺さなければならない・・・そして、俺は消えなければならない・・・から」

そして、真っ白になった漆黒は言った。

「天は、神を失った。もう、終わりだ・・・お前が・・・」
「僕・・・っ・・・」

そういって白い腕に抱かれ、黒の体は浮いた。
そして重力を無視した空間から下の見える場所へ歩いていった。

「僕で・・・・お前じゃなくて・・・いいのか?」
「お前じゃないと、だめなんだ。お前でなきゃ。お前のほうが・・・」

彼は手を離した。
漆黒の翼は飛ぶこともできず、ただ堕ちていった。
純白はこぼれ続ける涙を拭おうともせず何かを言っていた。
語りかけるように、優しく囁いていた。
届かないと知りながら。

黒の光は失われ、白光が淋しそうに輝いている。
しかし、なぜだろうか。
先程よりも儚く、薄く、消え入りそうな光なのに。
朱に染まった夕焼けにさえ負けてしまっているのに。
なぜだろうか、より輝いて見えた。
光は、空よりもずっと強く、赤く染まっていた。

「僕は・・・」


堕ちる。
黒く堕ちる。
雲を越え、山を越え。
だらしなくぶら下がった翼でわずかに滑空しながら。
ゆっくりと、光が満ちていった。
小さなそれも、同じ赤だった。
ただ二人の最期の空を映すように。
二人が最期を雫で染めたように。








夜の空に光があった。
星でも、月でもない神秘的な光が・・・・







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