【Children's Day】 朝、彼はため息をつく。それは誰かに伝わるわけでもなく、闇に消えた。 時計を見やると7時10分。急げば今からでもまだまだ間に合う時間だ。 しかし彼はベッドの上から動けずにいた。3度目のサビが携帯から流れた。 彼は上半身を起こした。子ども達の無邪気な叫び声が聞こえる。 彼はゆっくりとベッドを出た。 空は青々と澄み切っていた。昨夜降り続いた雨は今日という日の朝を清清しくし、水溜りをつくる。 すっかり手馴れたネクタイを締めて、少し大きめのスーツに身を包んだ彼はもう社会人であった。 カシュカシュとローファーが擦れる音は、車の騒音にかき消されていった。 行き交う人々の声が耳につく。 ぽん、と突如うつむく彼に軽い衝撃が走った。それは衝撃というには足りないほど柔らかい。 視線を前に戻すと、どうやら3〜4歳の男の子とぶつかってしまったようだ。 「ごめんなさい」 寂しそうに笑う子に彼はそっと微笑んだ。 「いいえ、気をつけてね」 「はぁい」 そういって優しく送り出すと彼はその男の子の後を目で追った。 少年は二件先の洋風な一軒家に入っていった。 庭には小さな鯉が3匹、気持ちよさそうに泳いでいた。
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