「この本の意味・・・か」 義夫は布団の中というポジションは同じに、昨日より頭と心を作動させながら本の中身を眺めていた。 そして、じっくり・・・ゆったり・・・それでいて必死に考えて、一つの答えを導き出した。 それはハインの言った通りのものだった。 しかし、それが本当にその意味を持つのどうかはまだ自分にも分からなかった。 次の日義夫は珍しい事に休みの日であるにも関わらず、妻と娘と同じ食卓に座っていた。 しかしそこにはそれが当たり前のような雰囲気で静寂が漂っていた。 「母さん、麻子、ちょっと良いか?」 義夫のその言葉に二人は手を休める事無く、眼だけを義夫の方に向けた。 「これから二人とも用事があると思うんだけど、食事が終わったら五分だけ庭に出てくれないか?」 二人は語尾が疑問文だったため、それで言葉が終わりだという事を察知し無言で眼を元に戻した。 食事が終わって食器を下げ終わった後。 二人は義夫がカメラのセットをしながら待つ庭にと出てきた。 義夫とコミュニケーションを取ろうという気はもちろん無く、別に義夫の為にと思った訳でもなかった。 二人の中にあるのはただ、断固として義夫の要求を断る理由も無いから、それだけだった。 「はい、じゃあ母さんはここに立って、麻子はここに立ってね」 義夫は二人を、ちょうど間に一人入るぐらいの間隔を開けて立たせた。 そして自分は少し前に置いたカメラのタイマーセットを済ませた後に慌てて二人の間に入り、最大限の笑顔でこう言った。 「はい、チーズ♪」 それから数日後、義夫は撮った写真を店で受け取り、それをあの本の続きに貼り付けた。 そこには場違いなほどの笑顔の自分と、いつもと同じ家の庭。 そしていつもと同じ二人の無表情が写っていた。 しかし義夫にはそれで十分だった。 こんな写真が返ってくるのは最初から予想していた事だし、そうなる事が答えへの第一歩だったからだ。 そう、これが義夫の出した答え。 今は笑っているのが自分だけでも良い。 なぜなら自分のその笑顔が二人にも感染してくれれば良いのだから。 それはずっと遠い話になるのかもしれない。 しかし、それで構わない。 だって・・・ 運命の本のページは、限りなくあるのだから・・・。
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